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盛岡地方裁判所 昭和23年(行)43号 判決

原告 小泉敬吾

被告 岩手県知事

一、主  文

原告の訴はこれを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「被告が昭和二十三年一月三十一日附岩手に第三六八二号買収令書をもつて岩手県江刺郡岩谷堂町大字向山十三番の一畑三反二畝十四歩につきなした買収処分はこれを取り消す、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として、請求趣旨記載の土地は元訴外藤沢勇の所有であつたが、原告が永年に亘る官吏生活をやめ岩谷堂町大字向山の本籍地に帰郷し農業を営んで余生を送ろうと考え、昭和十九年一月二十七日右訴外人から前記土地を買い受けその頃所有権移転登記を経由したのであつて、原告所有の唯一の耕地である。

然るに昭和二十二年十月三十日岩谷堂町農地委員会が、昭和二十年十一月二十三日現在の事実に基き、右土地が自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する)第三条第一項第一号に該当するものとして買収計画を樹立し、昭和二十二年十一月一日公告し十日間書類を縦覧に供した。よつて原告はこれを不服として同月六日町農地委員会に対し異議を申し立てたが同月十一日却下されたので更に同年十二月七日県農地委員会に対し訴願したところ、昭和二十三年一月二十一日棄却され、次いで被告知事が県農地委員会の所定の承認手続を経て昭和二十四年十二月二日を買収の時期とする昭和二十三年一月三十一日附買収令書を発行し、同年三月中右令書を原告に交付しようとしたところ原告が受領を拒絶したので昭和二十四年七月十八日附岩手県報告示第四〇五号をもつて買収令書の交付に代る公告をなした。

しかしながら基準時現在において原告が前記土地を何人に対しても賃貸したことのないのは勿論使用貸借による権利又は地上権その他何等の権利を設定したことはなく、原告の自作地であつたのである。すなわち原告の右買受取得前から訴外伊東久三郎が前主から右土地を借りて小作し、うち五畝歩には林檎樹を植栽してあつたので、昭和二十年三月十日原告は同訴外人に対し、今後原告において自作したいから返還してくれと申し入れたところ、同訴外人は快くこれを承諾し、即日右土地全部の返還を受けたのである。しかしてそのうち五畝歩の地上植栽の林檎樹については、相当価格をもつて原告が買い取るかそれとも同訴外人において他に移植するかは後日決めるとの約定であつたが現在に至るまでそのままになつているけれども、右五畝歩について同人から小作料を取つているわけでもなく、また使用貸借を容認したわけでもない。そこで右返還を受けて以降現在に至るまで原告及びその家族において土曜日から日曜日にかけて或は随時一ノ関市から出向いて耕作し、その収穫物も全部原告が収納して来たのである。もつとも原告が一ノ関市に居住していた関係上、原告の甥訴外藤沢勇に右土地の管理を依頼していたので、同訴外人が時に耕作したことがあつたとしても、原告の単なる手伝人にすぎず、同人との間に小作契約又は使用貸借契約を結んだことはなく、その他右土地の耕作に関する何等の権利を設定したこともないのである。このように基準時現在右土地は原告の自作地であつたにかかわらず、町農地委員会は同日現在における耕作関係の認定を誤まり、これを不在地主の小作地であるとして買収計画を樹立したのは違法であり、従つてこれに基いてなした被告知事の前記買収処分は違法であつて取消を免れない。よつてこれが取消を求めるため本訴請求に及ぶと述べた(立証省略)。

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、原告主張事実中、岩谷堂町農地委員会が基準時現在の事実に基き、原告主張の本件土地につき自創法第三条第一項第一号に該当するものとして買収計画を樹立し、公告書類縦覧の手続をなしたこと、これに対し原告がその主張のように異議を申し立て次いで訴願したがそれぞれ却下、棄却され、被告知事が所定の承認手続を経て原告主張のような買収令書を発行し、これを原告に交付しようとしたところ受領を拒絶されたので、原告主張日時岩手県報告示をもつて買収令書の交付に代る公告をなしたことは認めるが、原告がその主張日時訴外伊東久三郎から本件土地の返還を受け基準時現在これを自作していたとの点は否認する。基準時現在右土地のうち二反二畝十四歩は訴外藤沢勇が残部一反歩は訴外伊東久五郎がそれぞれ小作していたのであり、これを自創法第三条第一項第一号に該当する不在地主の小作地として買収した被告知事の本件買収処分に何等違法はないと述べた(立証省略)。

三、理  由

原告主張の本件土地につき昭和二十二年十月三十日岩谷堂町農地委員会が昭和二十年十一月二十三日基準時現在の事実に基き、自創法第三条第一項第一号に該当するものとして買収計画を樹立し、昭和二十二年十一月一日公告書類縦覧の手続をなしたに対し原告が同月六日町農地委員会に対し異議を申し立てたところ同月十五日却下されるや同年十二月七日県農地委員会に対し訴願したが昭和二十三年一月二十一日棄却となり、次いで被告知事が昭和二十四年十二月二日を買収の時期とする昭和二十三年一月三十一日附買収令書を発行し、同年三月中これを原告に交付しようとしたが受領を拒絶されたので昭和二十四年七月十八日附岩手県報告示第四〇五号をもつて買収令書の交付に代る公告をなしたことは当事者間に争がない。

本件買収処分の取消を求める訴が法定の出訴期間内に提起されたものであるか否かについて案ずるに、原告が当初国を被告として前示訴願棄却裁決の取消を請求していたのであつたが、昭和二十六年十一月二十七日当裁判所に対し同日附請求の趣旨訂正申立書をもつて従来の訴を取り下げこれと交換的に新たに岩手県知事を被告として本件買収処分の取消を求める申立をなし、訴の変更をなしたものであることは本件記録上明らかであり、一方被告知事が前示買収令書の交付に代る公告をなしたのは昭和二十四年七月十八日であることは前認定のとおりで、原告は右同日買収処分のあつたことを知つたものと推定すべきである。

しからば原告の本件買収処分の取消を求める訴は自創法第四十七条の二に定める出訴期間内に提起されたものとなし得るであろうか。行政処分の取消又は変更を求める訴訟といえどもその訴訟の繋属中、請求の基礎に変更のない限り請求の趣旨を変更しそれに伴い被告をも変更し、或は被告のみを変更し得るものであることは民事訴訟法第二百三十二条及び行政事件訴訟特例法第七条第一項の規定に徴し明らかであり今更多言を要しないところであるがこの場合新たな請求が出訴期間を遵守したか否かは最初に訴を提起した時か、それとも訴を変更した時か、そのいずれを基準として判断すべきであるかについて考えて見なければならない。

本件において原告の取下前の取消請求の対象は訴願棄却の裁決処分であり、変更後の新たな訴におけるそれは買収処分であり、いずれもその処分の実質上の主体は国であるから、右のように訴を変更したとはいえ単に形式上の相手方たる被告及び請求の趣旨の表示を異にするに至つただけであつて結局形式的なものにすぎず、実質は依然同一であるから、最初の訴願棄却裁決の取消の訴が出訴期間内に提起せられたものである以上出訴期間経過後において本件買収処分取消の訴に変更せられても依然適法な訴として繋属するものであると解し得らるる如くであり、また行政事件訴訟特例法第七条第一項の規定を適用し被告の変更が許される以上、同条第二項により出訴期間の遵守については最初の訴提起のときに遡つて提起したものと看做されるかのようではある。成る程自創法による農地買収手続は市町村農地委員会の買収計画の樹立に始まり、都道府県農地委員会の承認手続を経て、都道府県知事の買収令書の交付により終結するところの一連の手続的行為であり、右各段階の手続を通じてその実質的主体は国ではある。しかしこのように段階的に発展する一連の行為の結合により一箇の法律効果の完成に指向されたその各段階の行為を、自創法は特に買収手続の慎重を期し、それぞれ独立した別個の行政庁をして分担せしめているのである。買収計画庁である市町村農地委員会は都道府県農地委員会若しくは都道府県知事の権限を代行して買収計画を樹立しているのではない。従つて各分担行政庁はそれぞれ独立の権限をもつてその手続の段階における法定の要件を審査の上それぞれの処分をしなければならないのである。しかして自創法は、都道府県農地委員会の承認処分の場合を除き、各段階における行政処分は独立の行政処分として出訴の対象とすることを許し、買収計画、これに対する異議訴願に関する処分と、買収令書交付による処分については各別に出訴期間を定めているのである。もつとも当初の買収計画樹立庁における計画樹立の違法原因が、その後の段階を分担する行政庁においても同じ轍を踏むところとなりその違法原因を共通にすることもないでもないが、各分担行政庁自体に特有な要件を具備することを要するのであり、従つてそれ自体に特有な違法原因も存するわけで、例えば訴願裁決については都道府県農地委員会の構成や権限に関する瑕疵或は裁決手続に特有な違法原因があり得るし、また買収処分については、買収令書の必要記載事項の欠缺或は令書交付に関する瑕疵等買収計画又は訴願裁決の処分とは別個な買収処分それ自体に特有な違法原因があり得るわけであり、各処分は各別に出訴し得ることとしてその出訴期間を定めているのである。従つて一分担庁の行政処分に存する違法原因を主張しその処分の取消を求める旧請求の訴提起によつて、若し他の分担庁の行政処分の取消を求める新請求の出訴期間も遵守されたことになるとすれば、新請求については、出訴期間に制限されることなく新たな事実の主張が許されることとなり、各段階における個々の行政処分を出訴の対象となし、買収計画、これに対する異議訴願に関する処分と買収令書交付による処分とについて各別に出訴期間の定めをなし、これを不変期間とした自創法の規定はその意義の大半を喪失する結果となるといわなければならない。従つて請求の基礎に変更のない限り、その請求の趣旨を変更し、これに伴い被告を変更することは許されるところではあるが、変更せんとする新請求は自創法所定の出訴期間の制約に服さなければならないものといわなければならない。

なおまた行政事件訴訟特例法第七条第二項の規定は、本来請求に変更のないことを前提とし、単に形式的な被告の変更にもかかわらず実質的には依然同一の請求が繋属している場合に関する規定であつて、新訴の交換的変更により実質的に請求の変更の結果被告の変更を来す場合に関するものではないのであり、同条によつても新訴の出訴期間を旧訴提起の日に遡らすべき理由となすを得ない。

よつて一連の買収手続における後行段階の或る独立の行政処分の取消を求める訴は、右行政処分そのものについての法定の出訴期間内に提起すべく、右期間経過後においては、仮令さきに変更前の訴をもつて先行段階における或る行政処分の取消を求め、現にこれが繋属している場合であつても最早適法にこれを提起することはできないといわなければならない。本件において、当初原告は出訴期間内に適法に訴願棄却裁決の取消を求める訴を提起したのではあつたが、このような訴の提起によつて、後に訴の変更によつて提起された買収処分の取消を求める本件訴が遡つて適法に出訴期間内に提起されたものとはなし難いのである。

しかのみならず本件において原告が取下前の訴願棄却裁決の取消を求める訴を提起したのは昭和二十三年二月十日であることは本件記録に徴し明らかであるところ、訴の変更後の本訴において取消を求める本件買収処分が外部に対して効力を生じたのは昭和二十四年七月十八日であること前示認定のとおりであるから、新訴が旧訴提起の時に遡つて出訴期間内に提起されたものとすれば、取消の対象たる買収処分のいまだ存在しないのにこれが取消の訴を提起したこととなり不合理な結果となるのである。

よつて原告の本訴請求は、出訴期間経過後に提起せられたものであるから、進んで本案について判断するまでもなく不適法として却下すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村上武 上野正秋 佐藤幸太郎)

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